こんにちは、営業部の清水です。
今回は2015年の『グランドフィナーレ』です。

画像引用:2015 英・伊・瑞西・仏 / Youth / GAGA(IMDb)(日本公式)
イタリアの鬼才、パオロ・ソレンティーノ監督の美しく雄大なドラマです。
舞台はスイスの高級リゾートホテル。ベテラン音楽家のフレッドは、娘のレナ、親友で映画監督のミックとともにバカンスに訪れていました。
若手のスタッフと一緒に、いまなお現役であろうと脚本執筆に勤しむミックとは対照的に、フレッドは長い音楽家人生に幕を下ろそうとするかのように、英国女王からの演奏会の依頼を頑なに断り、音楽活動は全くせず、マッサージやスパで過ごしていました。その理由はなぜかー。

ソレンティーノ監督は、「人が老いて、あとどれだけ時間が残されているのだろうと考えた時、未来に何を望むのか、ということを描きたかった」そうです。
主人公フレッドは80歳を過ぎ、すでに引退するつもりであったけれども、まだ人生は続く。ホテルでの様々な出来事、人との関わりを経て、自分の人生と向き合い、哀しい過去を抱えながらも、前を向いて生きて行くことができる。そんな生きることの苦しみと希望が伝わって来る作品です。
↑このスチールでもう観たくなりますね。実際こんなギュウ詰めのスパは嫌だけど。
元はサナトリウムを改装したホテルが舞台であることと、ホテルスタッフの看護師のようなコスチュームや、スパやサウナに整然と並ぶ宿泊客、まるで診察か手術でも受けているかのように晒し出される老若男女の裸体が、非常に閉塞的な雰囲気を醸し出し、奇妙な感覚に陥ります。鮮やかな色彩で描かれる素晴らしく美しい映像は圧巻です。
娘のレナ役を、美しいレイチェル・ワイズが演じています。『ナイロビの蜂』でアカデミー助演女優賞を受賞したレイチェルは、『ロブスター』という、独身者は45日以内に相手を見つけなければ動物に変えられてしまうという、ブッ飛んだ世界観の作品に出演しています。どちらも必見です。

そしてどういうわけか、マラドーナの《そっくりさん》が登場します。凄まじい太鼓腹を揺らしながらホテルでバカンスを過ごす偽マラドーナは、プールで泳いだり、豪華な食事をしたり、時折詰め寄せたファンのサインに応じたりなど、優雅に過ごしています。

そんな彼の両腕にはブルガリのディアゴノクロノ(DG42BSCVDCH)とジェラルド・ジェンタ オクトが。本物マラドーナは両腕にウブロをしていたことで有名なので、そのオマージュでしょう。


※作中の着用は、オクトのバイレトログラード(BGO43C10SCVDBR)でしたが、当店では取り扱いがなかったので、クアドリレトロ(BGO45C10SCLDCHQR)の画像です。
この偽マラドーナ、いきなり会話に割り込んできて「俺も左利きだぜ」と得意満面で豪語し、「世界中が知っている」と真顔で突っ込まれてました。
しかしこの偽マラドーナは決してギャグ要員ではありません。序盤から片足を引きずり杖を突いて歩いていた彼が、左足でテニスボールを垂直に何度もリフティングします。それは夢か現か、それでも「老いた先にも未来はある」と伝えたいエピソードのひとつになっているように感じます。

名指揮者が主役なのに、高級リゾートに仏僧がいたり、マラドーナがいたり、パロマ・フェイスのPV風シーンが流れたり等々、一見無国籍でバラバラな要素が散りばめられているように見えて、それが全て見事にまとまって美しい作品に仕上がっているのですから、ソレンティーノ監督の手腕に脱帽です。